富山市財政危機回避緊急プログラム
はじめに
我が国経済は、バブル崩壊後の不良債権問題や株価、地価の下落により、深刻な資産デフレに陥るとともに、数次の経済対策にともない国・地方ともに大きな借入金を抱える事態となっている。このため、国は、平成14年1月に「構造改革と経済財政の中期展望」を閣議決定し、デフレの克服と国地方をあわせたプライマリーバランスなどの数値目標を掲げ、経済の立て直しを図っているところである。
また、本年6月に閣議決定した「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(骨太の方針第3弾)では、地方交付税総額を抑制するとともに、平成18年度までの3年間で補助金4兆円を削減し、この削減した補助金の8割のみ(義務的経費の補助金を除く)を税源移譲する方向性が示された。
このような中、本市の財政環境を見るに、平成9年度の市税収入をピークに平成10年度の特別減税や平成11年度の恒久減税の影響、長引く景気低迷による給与所得や企業収益の低下から、個人・法人市民税が減少するとともに、競輪事業収益が大きく落ち込んでおり、一般財源の伸びが期待できない状況にある。
一方、短期間で整備を進めてきた下水道事業への繰出金が急増していることや、各種福祉施策の対象者増に伴う扶助費の伸びが大きいこと、経済対策に伴う公共事業や国体関連施設整備に伴う公債費の増などから、現行の市民負担で現行の市民サービス水準を維持するためには、財政調整基金や減債基金を取り崩さなければ予算が編成できないといった逼迫した財政状況となっている。
このため、今日の地方分権時代にあっては、自己決定・自己責任の原理に基づき、従来の「右肩上がりの事業発想」による総花的な政策や「国庫補助負担金への依存体質」など、これまでのまちづくりに対する政策の発想を抜本的に転換し、行政を小さくして民間活力を引き出し、税負担を増やすことなく受益者に適正な負担を求め、真に必要な人に、必要なサービスを、的確な費用で、選択的に提供される環境を作り上げねばならない。
さらに、市民生活の質の向上を求める社会の成熟化が進展する反面、今日の財政状況の厳しい制約を踏まえ、いかに個性豊かなまちづくりを有効に進めているか、成果を上げているか、市民に対してきちんとした説明責任を果たす政策選択の質と成果が問われている。
市が実施する都市政策が、暮らしの快適さや住みやすさなど、市民生活にどのような成果をもたらし、市民が収めた税金に見合った価値あるサービスを提供しているか、その成果を明らかにし、透明性を高め、市民に対する説明責任を果たし、市民が納得する合理的な政策選択と市民満足度の向上に努めなければならない。
このため、ここに本市が財政危機に至ることを回避するためにとるべき、当面の危機回避緊急プログラムを示すこととした。
平成15年7月
第1章 富山市財政の現況と課題
現在、富山市は、平成8年4月に中核市に移行して以来、もっとも深刻な財政逼迫状況に直面しています。平成10年度以降決算剰余金は減少し、平成12年度以降からは基金を取り崩すことでようやく黒字決算を維持しており、基金残高も残り少なくなっている厳しい状況にあっては、平成15年度予算においても、実質的には多額の収支不足が発生することが予想されます。
このままで推移するならば、数年後には赤字団体となり、さらには民間企業の破産に相当する「財政再建団体」に転落してしまうことも危惧される事態となっています。
富山市は県内でも宇奈月町に次いで税財源の比率が高いにもかかわらず、予想をはるかに上回るスピードで財政状況が悪化しています。そこで、「第1章 富山市財政の現況と課題」においては、富山市財政の現況を客観的に説明したのち、こうした危機的状況に至った要因を、まずは歳入・歳出構造から分析します。
1.富山市財政の現況
平成14年度の富山市の決算(見込み)は、「経常収支比率」が82.7%(普通会計ベース 経常的支出に充当する一般財源の割合で財政構造の弾力性を示す指標。一般的には都市にあっては75%程度が妥当)、「起債制限比率」が8.7%(普通会計ベース 市債償還に充当する一般財源の割合で、20%を超えると起債が制限される。)となっており、表面上は他の中核市と比較しても、平均的な数値となっています。(グラフ4、7)
また、中核市に移行して以来、今日に至るまで、自治体の赤字・黒字を一義的に表す「実質収支」は、黒字決算を維持してきたこともあり、富山市の財政にはまだまだ余裕があると見られがちです。しかし、実際には、富山市における市税収入と歳出総額は大きく乖離したまま、さらに拡大する傾向にあります。市税収入と歳出総額の大きなギャップが、これまで貯えてきた貯金(基金)を急激に減少させているというのが実態です。
バブル経済期の最中であった平成元年度に299億円であった市税収入と歳出総額のギャップは、バブル経済崩壊後、平成4年度から平成7年度にかけて行われた景気対策を契機にそのギャップは拡大し、中核市となった平成8年度には652億円にまで拡大しました。平成9年度には一旦縮小しましたが、平成11年度には699億円にまで拡大し、その後横ばいのまま今日に至っています。(グラフ1)
これを、平成元年度を100とする指数で見ると、常に歳出総額の伸びが市税収入の伸びを上回り、平成6年度以降は、そのギャップが急速に広がっていることが明確にわかります。(グラフ2)
こうした収支ギャップの拡大に伴い増加したのが市債です。
バブル経済崩壊後の平成5年度から富山市でも経済対策のための公共事業などにより、発行総額が恒常的に100億円を超えるようになっています。この市債の増加が、比較的良好とみられていたその他の財政指標にも暗い影を落とし始めています。(グラフ3)
「公債費負担比率」(普通会計ベース 公債費に充当する一般財源の割合。一般的には15%を超えると警戒ライン、20%を超えると危険ライン)は、平成6年度以降上昇傾向にあり、平成12年度・平成13年度には将来の公債費負担軽減のため繰上償還を行った影響などにより、17%まで上昇し危険ラインの20%に迫る状況になりました。(グラフ4)
このように歳出の伸びを、市債発行により補っていたため、平成10年度までは実質収支の動向は歳出の動向とほぼ一致しています。しかし、平成12年度以降は市債発行を抑制した結果、歳出に見合う歳入がないため実質収支の黒字額は年々減少し、ついに平成13年度決算においては過去最低規模の4億円弱の実質収支にとどまりました。この4億円弱の実質収支も、将来のために蓄えていた残り少ない貯金をさらに取り崩した結果、見かけ上の黒字決算を維持してきたのです。(グラフ5、6)
また、冒頭言及した「経常収支比率」についても、平成元年度から急上昇し、平成14年度には再び80%を超えることが予想されております。他の中核市なみとは言っても、一般に硬直化が懸念されはじめる75%を大きく上回る水準にあります。(グラフ7)
このように国体関連の施設整備が一段落し、市債発行を抑制するようになった平成12年度以降も、市税収入と歳出総額のギャップがさほど縮小していないことを考えると、これは、もはや収支ギャップが一時的な公共事業の拡大によってもたらされた一過性のものではなく、歳入歳出に係る構造的な要因に基づくものであることを示唆していると考えられます。
そこで、次に、市税収入を含めた歳入構造に関して分析してみます。
2.崩れた強固な歳入構造
収支ギャップが拡大してきている理由の一つは、市税を含めた歳入の伸び悩みにあります。商工業都市として位置づけられる富山市は、個人・法人市民税、固定資産税といった主な税目のほか、競輪事業収益事業からの多額の繰入金など、強固な歳入構造を維持してきました。
しかし、バブル経済の崩壊や近年のデフレによる景気の低迷により、市税の減収や収益事業の悪化を招き、歳入の確保が困難になってきています。また、この長引く景気の低迷が、失業者の増加や可処分所得の減少など、更なる景気低迷の引き金となっており、現在の構造不況の回復には、まだかなりの時間を要するものと予測されます。
富山市としても、新たな企業誘致など、税源培養策を真剣に検討しなければならない状況ですが、経済構造の変動に伴う時代趨勢的な現象なだけに、安易に市税の増収を見込める状態ではありません。
(1)今後も大幅な増収を期待できない市税収入
市税収入は、平成6年度の税制改革により前年度を下回り、平成10年度の特別減税、平成11年度の恒久的減税の実施等の影響により、平成9年度の607億円をピークに低迷状況にあります。(グラフ8)
個人市民税は、バブル経済崩壊後、景気が低迷する中、所得の大宗を占める給与所得の減少や数次にわたる減税措置の影響などから平成9年度の198億円をピークに減収が続いていますが、今後も景気低迷の影響や人口減に伴う納税者数の減少などから所得の伸びは期待できず、厳しい状況は続くものと見込まれます。
法人市民税は、バブル経済崩壊後の景気低迷の影響から企業収益が大幅に悪化し、国際競争力を強化する観点から実施された法人税率引き下げのほか、不良債権処理や円高の影響などから、税収は平成14年度では平成元年度のピーク時115億円の54%にまで落ち込んでいます。平成12年度はリストラなど経営合理化効果により増収となったものの、本格的な景気の回復に伴う企業収益の増加があるまでは、当面厳しい状況が続くものと見込まれます。
次に、固定資産税は、現在もわずかに増え続けていますが、今後も地価下落の進行や製造業を中心とした企業の収益悪化により設備投資が回復しない中では、固定資産税の収入増は期待できないものと考えられます。
このように、市の歳入の根幹を占める市税収入は、急速な景気回復や大きな制度改正がない限り、大幅な伸びは期待できない状況にあります。
(2)「収益事業」の危機的状況
競輪事業からの収益金の繰入は、「ふるさとダービー」を開催した平成7から8年度に競輪事業から18億円以上の繰入れがあり、市の貴重な財源として活用してきました。
しかし、最近ではレジャーの多様化等の影響から売上げが激減しており、平成14年度は競輪事業からわずか3.6億円の繰入れとなっています。一方では賭け式の多様化から新たな設備投資を行うなど、競輪事業を維持する経費の増加も避けられないことから、今後も多くを望むことはできません。(グラフ9)
富山市の「強固な財源」の一角を担ってきた競輪事業も、一般会計への繰入れを期待することは、ほとんど望めない状況にあります。
(3)底をつく市の貯金「財政調整基金」
財政調整基金からの繰入れは、平成9年度には16億円、平成11年度に8億円、平成14年度には20億円を取り崩し、平成15年度予算では10億円を予定しています。財政調整基金の残高もピーク時の平成3年度には、82億円に達していましたが、その後の取り崩しにより、平成15年度末では約19億円と底をつきそうな状況にあります。
その他の基金についても、それぞれの設置目的に応じた活用を図る必要から財源対策としての活用は困難な状況にあります。(グラフ10)
(4)頼みにできない「地方交付税」と「国庫補助負担金」
本年6月27日に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(骨太の方針第3弾)により、「国庫補助負担金・地方交付税・税源移譲を含む税源配分のあり方」を三位一体で改革する案がとりまとめられました。
この改革案は、〈1〉国庫補助負担金について平成18年度までに4兆円程度を目途に廃止・縮減等を行う、〈2〉廃止する国庫補助負担金の対象事業の中で引き続き地方が主体となって実施する必要のあるものについて税源移譲することとし、基幹税を基本として、補助金の8割程度を税源移譲の目安とする(ただし義務的な事業は効率化を図った上で全額を移譲する)、〈3〉地方交付税は、財源保障機能全般を見直して縮小し、交付税総額を抑制し、自治体の交付税依存体質の脱却を目指す、こととしています。
いずれにしても、今後は、地方自治体においてはさらなる自主・自立の行政運営が求められており、国へ依存する財源は削減される状況にあるのです。
ここまで、〈1〉市税収入と歳出総額とのギャップがさらに拡大傾向にあること、〈2〉このために、富山市がかつてない財政逼迫に直面していること、〈3〉さらに、市税収入を含む歳入総額は、今後も伸び悩む情勢にあることを、説明しました。
次に、歳出構造を分析し、その硬直化が進んでいることから、これまでの部分的改良では、このままのサービス水準すら維持できない状況にあることを説明します。
3.硬直化の進む歳出構造
市税収入をはじめとする歳入総額に増収を期待できないとすれば、それに見合った水準にまで歳出総額を削減することによって、はじめて収支は均衡水準を回復することとなります。しかし、残念ながら、これまでの強固な歳入構造に支えられてきた富山市の歳出構造は、相当程度、硬直化が進んでおり、にわかに歳出を削減できない状況に陥っているのです。(グラフ11)
以下、この点を人件費・扶助費・投資的経費の3つに分けて説明します。
(1)人件費
他の中核市と比較した場合、富山市の一般行政職の職員数は、人口千人あたり3.4人と平均的な数になっていますが、職員の平均年齢が44.7歳と高いため、平均給料も高くなっています。
また、保育士やごみ収集職員など全職種を対象とした人口千人あたりの職員数は、10.7人と他の中核市に比較して多く、歳出が硬直化する一因となっています。(平成14年度地方公務員給与実態調査による数値)
ア.職員の高年齢化と人件費単価の高騰
富山市の平成13年度の普通会計総額に占める人件費の割合は20.7%で、ほぼ中核市平均(20.3%)となっていますが、団塊の世代を中心とする職員の高齢化が進み、一般行政職職員の平均年齢は44.7歳と高くなっています。そのため、平均給料も高く、年功序列型賃金体系のなかで、必然的に人件費単価が高くなっています。
イ.直営方式による事業の実施
富山市は、市民千人当たりの職員数が10.7人と、他の中核市の平均(8.9人)に比べて多くなっています。これは、保育所運営、ごみ収集、その他施設管理業務等について、その多くを直営方式で事業実施してきたことが挙げられます。
(2)扶助費
歳出構造硬直化の大きな要因の一つに、大幅な扶助費の増加があります。平成13年度の扶助費103億円は、平成元年度の62億円の約1.7倍に相当します。歳出全体に占める扶助費の割合も高くなってきており、普通会計総額に占める割合は、平成12年度の介護保険制度の導入で一時的に減少したものの、平成元年度の7.7%から、平成13年度には8.6%へと年々着実に上昇しています。こうした扶助費の大幅な増加傾向については、次のような要因が考えられます。(グラフ12)
ア.高齢者人口の急速な増加の影響
富山市における全人口に占める高齢者人口比率は、平成元年3月末の12.6%から、平成15年3月末では、1.5倍以上の20.2%となりました。このような高齢者比率の伸びは、寝たきりや痴呆性などの高齢者介護に要する費用の増加を招くだけではなく、一般高齢者に対する給付やサービス費用の増加にもつながっています。
イ.一般財源の負担増に直結する単独事業費の著しい伸び
扶助費のなかで、補助事業費は平成元年度の48億円から平成13年度には12億円増加して60億円となっていますが、単独事業費(県単独事業を含む。)は、平成元年度の14億円から、平成13年度には3倍以上の43億円となっています。これは対象年齢の相次ぐ引き上げによる乳幼児医療費助成の増加や、障害を持つ高齢者に対する医療費助成(60歳以上の高齢者に対する市の単独事業)の増加などによるものです。
また、事業費に占める一般財源の額をみますと、補助事業費が総額60億円のうち15億円であるのに対して、単独事業費は、43億円のうち33億円に上っています。(グラフ13)
ウ.国・県の補助制度等の見直しの影響
国は、平成元年度に国庫補助負担率の引き下げを恒久化し、児童保護措置費負担金をそれまでの10分の8から2分の1に、生活保護負担金を10分の8から4分の3にするなどの改定を行っています。また、最近改正された新たな医療保険制度により、本人負担の増加とともに、老人保健法に基づく老人医療の対象者年齢が70歳から75歳に引き上げられました。こうした制度改正にもかかわらず、高齢者などの医療費等の負担を軽減する各種施策を維持していくためには、多額の市単独事業費が必要となり財政負担を強いられます。
(3)投資的経費
ア.近年における大幅な事業費の増加
財政硬直化の要因の一つとして、「ムダな公共事業」「過度な普通建設事業」がよく指摘されるところです。
富山市では、戦後間もなく建設した市庁舎(昭和29年)や公会堂(昭和29年)老朽化に伴う建替えや、市民ニーズの高かった市民球場や社会福祉施設の建設、国体のための施設整備など、施設建設が続いたことから、市単独の投資的経費の割合が大きくなっています。また、国の景気対策に連動した投資も継続的に実施してきました。
しかし、国体関連の施設整備が一段落した平成12年度以降は、それまでに実施した事業の借金の返済のために、事業費の圧縮を余儀なくされているのです。(グラフ14)
イ.投資的経費と財源内訳の推移
平成元年以降の投資的経費とその財源内訳の推移を見ると、平成2年度までは、投資的経費の半分程度を一般財源で賄っていることがわかります。ところが、平成3年度以降、その比率は低下し、400億円を超える年度(平成7年度、平成8年度、平成10年度)には事業費の3割程度しか一般財源が占めていません。平成12年度以降は投資的経費を抑制し4割以上の比率まで上げていますが、平成2年度以前の水準には戻っていません。(グラフ15)
一方、この間の市債発行額をみると、平成5年度の発行額は前年の86億円から93%増加して166億円となり、翌年の平成6年度や平成7年度には、減税補てん債の発行もあって、それぞれ138億円、237億円という多額の発行となっています。その後も毎年100億円を超える市債発行が続いており、平成5年度以降の投資的事業は、借金である市債の発行に頼りながら続けられてきたのです。
この結果、市債残高は急速に増加しており、平成14年度末には、平成元年度(498億円)の約3倍の1,461億円となっています。このような市債残高の増加は、土地開発公社の借入残高や下水道事業会計の起債残高とも重なって、今後その元利償還金が市財政の大きな圧迫要因になると懸念されます。(グラフ16)
4.逼迫した財政見通し
こうした中、平成15年度当初予算編成にあたっては、国の補正予算を最大限に活用し、平成14年度3月補正予算と一体的に編成することにより、公共事業や福祉などの事業量の確保と景気対策に配慮し、総合計画新世紀プラン第1期基本計画の着実な推進と喫緊の課題である5分野の重点テーマに重点配分するなど創意と工夫に努めました。
しかしながら、財源不足は如何ともしがたく、一般財源の不足額26億円を財政調整基金と減債基金を取り崩すことで補てんしております。この結果、財政調整基金と減債基金の残高合計は、平成14年度末の約62億円から平成15年度末には約36億円へと激減する見込みとなっております。また、平成15年度の今後の補正見込みを考慮すると、なお約30億円の一般財源が必要と見込まれており、大変厳しい状況にあります。
さらに、平成16年度当初予算規模を平成15年度当初予算ベースで推計してみると、富山駅周辺地区南北一体的なまちづくり事業や市街地再開発事業などの大型事業が本格化すること、市町村合併推進に伴う臨時的経費が見込まれることなどから、平成15年度以上に財政環境が厳しいことは明らかであり、富山市はかつてないもっとも深刻な財政逼迫状況に直面しております。(グラフ17)
第2章 財政危機回避緊急プログラム
これまで述べてきたように、伸び悩む市税収入と硬直化が進む歳出構造を踏まえるならば、現状の施策を見直すことなく市政の運営を推進することは財政危機をもたらす恐れがあり、この危機を回避するための緊急措置をとらざるを得ない状況にあります。
第2章では、この緊急措置であるプログラムの基本的考え方、実施に向けた具体的取り組み、さらにはそのための新たな予算編成手法の取り組みについて示します。
1.緊急プログラムの基本的考え方
少子高齢化が進む今日の地方分権型社会にあっては、市民の行政に対する期待も大きいところであり、市民ニーズに的確に応えていかねばなりません。自己決定・自己責任の考えのもと、収入を的確に把握し、次代を担う子供達への負担を過大にすることなく、かつ適時的確な施策の展開が求められています。
このため、高度成長期にその原型が形作られた施策やサービス提供体制を見直すとともに、今日民間でできるものは民間の活力を生かし、特定個別的便益があるものには適正な負担を求め、市民負担の増加を回避しなければなりません。そして、真に必要な人に、必要なサービスを、的確な費用で、選択的に提供される環境を作り上げねばならないのです。
(1)公共部門と民間部門との役割分担
民間部門が育っていなかったことから公共部門が直営でサービスを提供していた時代はともかく、今日多くの分野で能力のある民間企業や民間非営利団体が生まれていることから、市場原理が働くものについては行政直営方式を見直し、サービス提供分野を民間部門にゆだねることを検討しなければなりません。
民間でできるものは民間に任せる必要があります。
(2)民間活用型公共サービス提供システムの拡充
これまで行政が主体的に担っていた公共サービスの提供を、民間企業や民間非営利団体などへの委託や民営化を図ることにより、民間部門の活動領域を拡大し、行政が監視・指導を通じて的確な価格と品質を確保していくシステムを拡充していかねばなりません。
また、民間資金を活用した社会資本整備を図るPFI(Private Finance Initiative)などの民活方式も検討していく必要があります。
2.緊急プログラム実施に向けた具体的取り組み
(1)内部事務管理の視点からの見直し
本市は、平成10年度策定の「新富山市行政改革大綱」及び実施計画に基づき、多くの改革を積極的に実施し、多くの成果を上げてまいりました。さらに現在、本市を含む7市町村での合併が推進されておりますが、「市町村合併は、最大のリストラ策である。」との考えのもと、市民サービス水準の維持向上と行政運営体制について精力的に調整されております。
こうした中にあっても、本市は合併対象市町村の中のリーダー的立場として、自主的、積極的に内部事務管理体制の改善を図っていく必要があります。
ア.人事管理制度の見直し(職員配置と人事給与制度の改革)
人事管理については、事務事業の見直しや民間委託の推進などを図ることにより、平成11年度から15年度までの定員管理適正化計画に基づく総職員数5%削減の目標を達成したところであり、また、特殊勤務手当・管理職手当などの見直しや58歳昇給停止を実施してきたところであります。
今後とも、引き続き、定員管理の適正化や給与の適正化に努めるとともに、民間活用により効率的な行政サービスを確保できる業務については、民間委託を検討していかねばなりません。
- 人事院勧告以外の人件費の見直し
- 退職時特別昇給の見直し
- 家庭ごみ収集業務の民間委託
- 学校、病院などの調理業務の民間委託
- 職員配置基準の見直し
- 各種審議会等の委員報酬、講師謝礼基準の引下げ
イ.公営企業等の経営の健全化
地方公営企業は、常に企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するよう運営されなければなりません。そのため、その経営は独立採算制を原則とし、例外的に総務省通知による繰出基準により、一部の経費に限って一般会計等が負担することとしています。
しかしながら、実際には特別会計や企業会計へ基準外の繰出しを行っているのが現状であります。公営企業等における経営健全化への取り組みや受益者負担の見直しを図るためにも、基準外の繰出金を段階的に削減する必要があります。
- 下水道事業会計繰出金
- 病院事業会計繰出金
- 農業集落排水事業会計繰出金
- 国民健康保険事業会計繰出金
ウ.出資法人の見直しと統廃合
出資法人は、まちづくりや公共サービスなど行政目的達成のために設立されてきたものであります。しかしながら、社会情勢の変化に伴い法人の中には存在意義が薄れているものもあります。さらに、これまで実施してきた補助金や財政支出のあり方についても見直しが求められているほか、出資法人の情報公開や従来にも増しての効率的事業運営が求められております。
このため、時代の変化に即応した組織や財務体質への変革を図るとともに、出資法人の統廃合に取り組む必要があります。
- 株式会社市民プラザへの支援見直し
市民プラザ賃借料の引き下げ - 市民文化事業団と舞台芸術パーク財団の統合
市民文化事業団に対する委託料の見直し - 体育協会とスポーツ振興財団の統合
エ.市税等債権確保策の強化
市税、市営住宅使用料等の債権確保については、長引く景気の低迷など社会経済環境の変化から収納率が低下し、滞納額が増加傾向にあります。このため、収納率向上対策の一層の強化が必要であります。
- 市税
- 住宅使用料
- 保育料
- 国民健康保険料
- し尿収集手数料、地域し尿施設使用料等
- 農業集落排水使用料等
- 幼稚園保育料
- 奨学金等各種貸付金
オ.総合土地対策の推進
本市は公共用地の先行取得の手法として、「土地開発公社」、「公共用地先行取得事業特別会計」、「土地開発基金」を活用してきました。しかしながら、地価高騰期に取得した公共用地については、地価が下落傾向にある今日、補助対象事業用地として再取得するときに時価との大きな格差が発生しており、金利とともに一般財源の大きな負担となってきております。
このため、事業着手が当面見込まれない事業用地の新規取得を抑制するとともに、計画的な買戻しを図る必要があります。
カ.遊休財産の売却・貸付けによる財源の確保
本市が所有する普通財産で、行政目的として活用する予定のないものについては、積極的に売却もしくは貸し付けすることで、一般財源の確保に努める必要があります。
(2)公共施設・都市基盤整備事業の見直し
公共施設・都市基盤整備事業については、道路、河川、都市再開発、下水道、防災施設、公園、学校、福祉施設など、まちづくりの骨格を形成しております。これらは、市民の日常生活を支え、安心・安全で快適な生活を送るために、それを利用する人だけではなく市民全体の負担によって整備される公共性の高いものであります。
本市においては、バブル崩壊後の経済対策として公共事業を積極的に事業展開するとともに、戦後建設された公会堂や市庁舎などの建替え、さらには国体施設の整備時期とも重なり大きく投資的経費を伸ばしてきたところであります。
今後、北陸新幹線の開業時期に合わせた南北一体的まちづくりや富山大橋の架け替え、中心地区の都市再開発が喫緊の大型事業として控えており、その他の投資的経費を圧縮せざるを得ない状況にあります。
学校建設については、耐震補強や老朽校舎などの建替えが順次計画されておりますが、教室不足などの緊急性や新設・統合などを優先し、当面抑制した計画で対応せざるを得ないと考えております。
- ア.新規着工事業の抑制
- 事業実施時期の延伸(事業着手時期の延伸、及び事業実施期間の延伸)
- 耐用年数に応じた建替計画及び建替えから外壁設備改善計画への変更
- イ.都市再開発事業費の抑制
- ウ.既存公営住宅のストックの活用(リフォームなど)
- エ.土木工事、建設工事の単価の引下げ
- オ.PFI方式の導入
(3)市民サービスの再構築
市民への行政サービスのあり方について再構築する必要があります。これまで行政が主体的に担っていた公共サービスの提供を、民間企業や民間非営利団体などへの委託や民営化を図ることにより、民間部門の活動領域を拡大し、行政が監視・指導を通じて的確な価格と品質を確保していくシステムを拡充していく必要があります。
- ア.保育などの子育て支援について
公立保育所の民営化施策を拡大し、民間部門における多様な保育メニューを充実させることで公共部門と民間部門が協力して子育て支援サービスを充実向上させていく必要があります。 - イ.高齢者対策について
少子高齢社会にあって、高齢者の役割や高齢者に対する期待も変化してきており、元気な高齢者も多いことからその豊富な知識と経験を生かし、現役世代に比べ恵まれているといわれる資産や生涯所得から、もっと高齢者に社会の主役を担ってもらうことが必要であります。高齢者を一律に扱うことなく、真に必要としている人へ、必要なサービスを、的確な費用で、選択的に提供していかねばなりません。
このことから高年齢を要件として提供されてきた保健福祉サービスや現金給付に類する事業、国の制度自体が改正されたものなど、これまでの単独・上乗せ施策を見直す必要があります。 - ウ.生涯学習について
生涯学習教育における個別便益的なものについては、民間カルチャーセンターとの役割分担やボランテイア・民間非営利団体の活用、育成にも配慮し、受益に合った適正な受益者負担を検討する必要があります。 - エ.現物給付の見直しについて
現在、本市独自の手厚い福祉サービスとして実施している現物給付については、幼児、ひとり親家庭等、妊産婦、重度心身障害者、65歳から69歳軽度障害者等で実施していますが、医療費の伸びの抑制や国民健康保険財政の健全化等の面から、償還払い方式に戻すことを検討する必要があります。 - オ.交通災害共済事業特別会計の廃止について
本市の交通災害共済制度は、昭和43年度に市民の交通事故による災害に対する相互救済を目的として設置されたものであります。しかしながら、民間の保険共済事業が充実する一方、自治会の事務負担やプライバシーの問題から、加入率は昭和61年度の81%から平成14年度の59%にまで年々減少してきております。このため、平成15年度をもって、交通災害共済事業の廃止を検討する必要があります。 - カ.各種補助金の見直し
制度開始から長期にわたり存続する補助金は、時間の経過と共に既得権益化する場合があります。社会経済環境の変化に伴い目的や必要性が不明確になるなど、行政の公正さを損なう恐れもあることから十分再検討すべきであります。一方、市民や民間非営利団体などとの協働により公共サービスを提供する視点からの活用も有効なことから、その積極的な活用も望まれます。
3.新たな予算編成手法の取り組み
(1)枠配分方式の導入
このような緊急プログラム実施に向けた具体的取り組みを成果あるものにするため、平成16年度予算編成においては、現場に最も近く、事業や施策の内容を最も熟知している担当部局長が、予算編成においてもリーダーシップを発揮し、先頭に立って見直しを進めることができる仕組みとして、枠配分方式を導入します。
枠配分方式とは、これまでの「各部局から財務部に対する予算要求」、「この要求に対する財務部の査定」という一連の予算編成の流れを改め、財務部は、翌年度に見込み得る一般財源を見積り、このうちの一定額を各部局に配分することにより、各部局長はこの枠を守りながら、その枠内で優先順位の高い事業を予算化するという方式であります。各部局長には、配分された枠内での裁量権・予算編成権が付与されることとなります。
ただし、公債費、人件費、国庫補助対象の扶助費など、裁量の余地の少ない義務的経費及び事務施設管理的経費、さらには重点テーマに係る新規事業や大型事業等については、この枠配分方式は適用せず、従来通りの方式で予算編成を行います。
日程 | 枠配分予算 | 重点・大型事業等予算 |
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9月上旬 | 枠配分額、及び枠配分予算編成方針の通知 | |
10月下旬 | 枠配分予算内容の報告 | 重点・大型授業等予算要求通知 |
11月上中旬 | 財政課による内容確認 | |
11月下旬 | 部局長からの市長説明(1週間程) | 重点・大型事業等予算要求締切 |
12月下旬 | 財務部長査定 | |
1月中旬 | 市長協議 | |
1月下旬 | 全体調整 | 内示、復活、市長査定、全体調整 |
(2)行政評価手法の向上
今日の厳しい財政環境の中にあって、市が実施する都市政策が、暮らしの快適さや住みやすさなど、市民生活にどのような成果をもたらし、市民が収めた税金に見合った価値あるサービスを提供しているか、その成果を明らかにし、透明性を高め、市民に対する説明責任を果たし、市民が納得する合理的な政策選択と市民満足度の向上に努めなければなりません。
いかに個性豊かなまちづくりを有効に進めているか、成果を上げているか、市民に対してきちんとした説明責任を果たす必要があり、政策選択の質と成果が問われております。
このため、本市は、平成10年度から「事務事業評価制度」を導入してきました。事務事業を総合計画の体系の中で捉え、その目的を明確にし、「必要性」、「優先性」、「妥当性」、「活動量」、「成果」の5項目について、総合的に評価し、課題・問題を明らかにするとともに、その改善策を考え実施するものです。
また、平成13年度をスタートとする総合計画新世紀プランでは、市民と行政が重点的に取り組んでいく目標をできるだけ具体的な数値として掲げる「評価指標」を設定しております。その評価指標には、人手や予算を投入することにより、どれだけの事業を実施したかを測る「活動量指標」と、行政の活動の結果、市民にどのような便益が生まれたのか、市民生活や地域にどのような変化が生じたかを測る「成果指標」がありますが、新世紀プランでは、市民と行政が協働で取り組んでいくことによりはじめて実現される「成果指標」を評価指標として重点的に設定しております。
これらの行政評価手法を一層改善し、有効活用できるよう発展させていく必要があります。
このことから、今年度においては、現行の事務事業評価、評価指標、市民意識調査結果の連携の強化を図り、施策に対する評価指標を充実させ、事務事業の上位に位置する施策についての評価を実施することとしております。また、部局における一次評価、庁内組織による二次評価のほか、客観性の確保や多様な意見の反映のための外部評価や、市民に対する説明責任を確保するための評価結果の公表も実施することとしております。
さらには、上位の目標課題として、行政(施策・事務事業)評価に加え、職員の意識改革を徹底させ、組織の目標の明確化や組織における成果を確認できる行政マネジメントシステムへと発展させることも今後検討していく必要があります。
(3)部局別検討事項
第1.各部局共通事項
- 大幅な市単独事業の見直し
- 大幅な事業実施時期の延伸(事業着手時期の延伸、及び事業実施期間の延伸)
- 建物については、耐用年数に応じた建替計画への変更、及び建替えから外壁設備改善への変更
- PFI方式の導入
- 民間委託の推進
- 各特別会計に対するルール外分の繰出基準の見直し
- 使用料・手数料の引上げ
- 市主催の各種講座・イベント等への参加者負担金の導入
- 各関係団体の事業の廃止、事業実施時期の延伸
- 各関係団体における独自事業の導入と、これに伴う独自財源の確保
- 行政改革目標の達成
- 補助金の見直し
第2.部局毎の個別検討事項
- 企画管理部
- 桐朋学園富山キャンパスへの支援の見直し
- 市民文化事業団に対する委託料の見直し
- 人事院勧告以外の市独自の人件費の見直し
- 各種審議会等の委員報酬、講師謝礼基準の引下げ
- 市民プラザ賃借料の引下げ
- 財務部
- 遊休財産の売却・貸付けによる財源の確保
- 税の収納率向上対策
- 福祉保健部
- 福祉給付事業等検討委員会による大幅な市単独事業の廃止の検討
- 保育料等の収納率向上対策
- 乳幼児、ひとり親家庭等、妊産婦、重度心身障害者、65歳から69歳軽度障害者に対する市単独・県単独の現物給付を取り止め、償還払い方式への移行
- 保育所の民営化
- 市民生活部
- 交通災害共済事業の廃止
- 国民健康保険料等の収納率向上対策
- 国民健康保険事業特別会計繰出金の抑制
- 環境部
- 一般家庭ごみ収集業務の民間委託実施
- し尿収集手数料、地域し尿施設使用料等の収納率向上対策
- 商工労働部
- 競輪事業からの繰入金の確保対策
- 富山大手町コンベンション株式会社への支援の見直し
- 農林水産部
- 農業集落排水使用料の見直し
- 農業集落排水建設費受益者負担金の見直し
- 農業集落排水使用料等の収納率向上対策
- 都市整備部
- 都市再開発事業費の抑制
- 土木工事、建設工事の単価の引下げ
- 建設部
- ハード事業実施時期の延伸(事業着手時期の延伸、及び事業実施期間の延伸)と、事業内容の縮減
- 住宅使用料等の収納率向上対策
- 土木工事、建設工事の単価の引下げ(市営住宅建設単価の引下げを含む)
- 市民病院
- 繰出基準の見直し
- 医療費の本人負担分の収納率向上対策
- 調理業務の民間委託実施
- 上下水道局
- 繰出基準の見直し
- 下水道使用料の見直し
- 教育委員会
- 学校建設単価の引下げ、及び建設計画等の見直し
- 幼稚園保育料、奨学金返還金等の収納率向上対策
- 幼稚園保育料の引上げ
- 幼稚園の統廃合
- 市民大学等、生涯学習教育の受講料の見直し
- 消防本部
- 分団器具置場改築時期及び消防車両の更新時期の延伸
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